アナログモデリングシンセで有名なArturia様からこの度Pigments 4をご提供いただき使ってみました。
個人的にArturiaはアナログモデリングが得意という硬派な開発元という印象を持っていましたが、Arturiaのブランドイメージを守りながら、他社競合シンセと差別化がされている使いやすいシンセだと思いましたので、ご紹介させていただきます。
Pigmentsはどんなシンセ?
本来ならば複数のシンセを立ち上げて重ねないと作れないようなサウンドを1つで扱えてしまうすごいシンセ。
このようなコンセプトのソフトウェアシンセはVENGEANCE SOUND Avengerが競合にありますが、EDM系サウンドで用いられたデジタルなギスギスした明るさというより、近年聴かれるどこか落ち着いたサウンドの方が得意な気がしており、個人的に好みです。
5種類のエンジンタイプ
Pigmentsでは、音源方式を「エンジン」と呼んでおり、以下のエンジンが内蔵されています。
アナログエンジン
アナログモデリングシンセの音が出るエンジンです。Pigmentsの開発元Arturiaが最も得意とするところだと思います。3オシレーターのヴィンテージシンセとして使用可能。
ウェーブテーブルエンジン
SerumやMassiveで有名でかつメジャーになったウェーブテーブル方式。Serumとほぼ同等の機能を持っているため、この部分だけを切り出して考えれば、Serumと競合する。
サンプル/グラニュラーエンジン
シンセは普通電子音系の波形しかオシレーターに持ちませんが、サンプルプレイバックエンジンを搭載していることからピアノなど現存する生楽器の音を重ねることが出来ます。
音作りが細かく可能なシンセでありながら、サンプルプレイバックエンジンがあることによって、「これはシンセなのか?生楽器の加工をした音なのか?」といったニュアンスに富んだ音を作り出せます。この部分はVENGEANCE SOUND Avengerと出来ることが共通していると思います。
さらに、グラニュラーエンジンもあるので、Cubase付属のPadshopやOmnisphereの機能もPigmentsは持っていることになります。
ハーモニックエンジン
FM音源方式のように、倍音をどんどん追加して金属的な響きを得ることが出来ます。ベルやエレピといったキラキラ系の音を作り出すのに必要だったり、スラップベースのような「ビシッ」と強いアタックを持つ音色を作るアイディアに使うことが出来ます。
ユーティリティエンジン
アナログエンジンに組み合わせて使うのが前提となっており、一般的なアナログモデリングシンセのノイズオシレーターの部分に相当します。
また、一般的なアナログモデリングシンセよりも機能が拡張されていて、自然音(街の雑踏音や雨の音など)なども収録されているのが面白いです。
VENGEANCE SOUND Avengerでは自然音をノイズオシレーターとして使うアイディアは出来ません。
新旧のフィルターモデル搭載で幅広い音作りの可能性
4つのアナログモデリングフィルター
よく比較されるSerumとの違いは、アナログモデリングを多数手掛けてきたArturiaらしいフィルタータイプのチョイスに特徴があると感じています。
- Mini(Mini Moog)
- SEM(OBERHEIM SEM)
- Mat-12(Oberheim Matrix 12)
- Jup-8(Roland Jupiter-8)
なお、今時なフィルタータイプもきちんと搭載されていますので、アナログモデリングに特化したV-Collectionとの差別化も感じます
コムフィルター
コムフィルターは入力信号に非常に短いディレイをかけた信号と入力信号をミックスして干渉を発生させて、倍音を強調したり (ピーク)、大きく弱めたり (ノッチ) する変化が生じるフィルターです。
フェイザーフィルター
フェイザーフィルターは1960年代のポップスで頻繁に見られたエフェクターのフェイザーをヒントにしたものです。入力信号の倍音にピークやノッチを発生させるという点ではコムフィルターと似ていて、エフェクターのフェイザーはLFOでモジュレーションをかけるのが一般的です。Pigmentsのフェイザーフィルターでは発生するピーク (ポール) の数も設定できます。
フォルマントフィルター
間違いなく最もパワフルと言えるフィルターは言葉を発することができる人間の口腔部でしょう。フォルマントフィルターは入力信号を色々な”母音”に加工するフィルターです。
わかりやすいモジュレーションルーティング
かつて大変人気だったMassiveからSerumに人気が移行していった理由は、ルーティングがわかりやすくなったこと。
特に、ウェーブテーブルシンセは、LFOなどで揺らすことこそ魅力があるので、モジュレーションルーティングが明解なのは使いやすさや初心者のステップアップにおいて大切なファクターだと思います。
Serumと同じようにドラッグ&ドロップでカットオフに対しLFOを適用することが可能ですし、適用量もドラッグ&ドロップで調整可能。
実際に何が起きているのかが視覚的にわかるGUIは、DTM講師としてもシンセをお教えする上で助かる機能です。
動作が軽い
シンセも多機能なものになってくると、調子良く5トラックも重ねてしまうと再生時「ブチブチ音が途切れる」といったことが起き、VENGEANCE SOUND Avengerは特に顕著だと思います。
PigmentsはVENGEANCE SOUND Avengerと比較すると、ほぼ同等のスペックを持ちながらも軽快に動く印象で気軽にどんどん立ち上げて試していくことが出来ます。
適当にルーティングしまくれば、聴いたことのない音になる
Pigmentsにはすぐ曲作りに取り掛かれそうな魅力的なプリセットがたくさん入っています。
でも、Pigmentsの面白さはモジュレーションルーティングがわかりやすいので、適当に「あれをLFOで動かしたら何が起きるかな」というアイディアベースで遊ぶのが面白いと個人的に思っています。
というのも、確かにPigmentsはとても多機能なシンセで、日本語マニュアルは213ページに渡りますが、ウェーブテーブルシンセのマニュアルをじっくり熟読したところで、結局どんな音になるのかが想像しにくいからです。
最低限のシンセの知識は学ぶ必要がありますが、DAW付属のシンプルなアナログモデリングシンセを触ることで最低限のことを学べば、すぐ使っていける点ではPigmentsは初心者からステップアップしたい方におすすめ出来ます。
適当にルーティングするだけでどんどん面白い音が作れる…ぜひご体験いただけたらなと思います。
競合シンセとの違い
競合シンセをたくさんお持ちの物持ちの方から見たPigmentsはどう評価すべきか…という点で考えてみますと、以下のように評価出来る気がしました。
- VENGEANCE SOUND Avenger…デジタル,多機能,拡張プリセット豊富,動作重い
- Pigments…アナログ,多機能,操作性が現代的
- Serum…デジタル,リードやベース向き,操作性が現代的
- Massive…Serumと同じ傾向だが、よりデジタル感,操作性が前時代的
なお、ウェーブテーブルシンセとして考えれば、SerumやMassive,Spireなど、EDM制作に人気だったシンセと競合しますが、サウンドエンジン音源方式の多さを考えるとどちらかというと直接的な競合はVENGEANCE SOUND Avengerと思っています。
そのため、Pigmentsは、VENGEANCE SOUND Avengerのようなモンスターシンセをもう少し軽快に使いたい方におすすめしたいと思いましたし、私自身もそのように向き合っていこうと思っています。