ミックスのとき、ローカットをすべきかすべきでないかの論争は度々見受けられますが、実際のところローカットをすべきなのでしょうか?それともローカットはしない方が良いのでしょうか?一緒に検証してみましょう。

ローカットを使用する理由

不要な低域を除去するため

低域(20Hz~100Hz)は、人間の耳に感じにくく、しかもエネルギーが大きいため、複数の音源が重なるとミックスが濁りやすくなります。特に、ボーカル、ギター、シンセなど、低域をそれほど必要としない音源では、ローカットを使用して低域を整理することが多いです。

サブベースのクリアランスを確保するため

バスドラムやベースなど、低域を担当する音がしっかりとミックスの中で存在感を持つためには、他の音源が不要な低域を持っていると干渉してしまいます。これを避けるため、他の音源にはローカットを施します。

吹かれ音やノイズをカットするため

ボーカルやマイク録音した音源には、意図しない低域ノイズが含まれていることがあります。これを除去することで、クリアなミックスを実現します。

ローカットをしない方が良い場合

音が薄くなる場合

ローカットを過度に使用すると、音のボディ感が失われてしまい、全体としてスカスカした印象になります。特にギターやボーカルの低域成分が音の温かみや厚みを形成している場合は、極端なローカットを避けるべきです。

エフェクトの副作用を避けるため

一部の音源やエフェクト(特にリバーブやディレイ)において、低域成分がサウンドの深みや豊かさを生むことがあります。このような場合、ローカットを使うと音の立体感が失われることがあります。

ローカットの効果を体験しよう

ローカットをすべきかすべきでないかは「ケースバイケース」

結局、ローカットをすべきかすべきでないかは「ケースバイケース」というのが答えになってしまうのですが、それでは元も子もないので、試聴音源をご用意しました。

ドラムとベース以外のパートへ90Hzのローカットを機械的に入れてみました。

メインボーカル(Synthesizer V Mai使用)にかけたローカットEQ
メインボーカル(Synthesizer V Mai使用)にかけたローカットEQ – Fabfilter Pro-Q3
リリースカットピアノにかけたローカットEQ
リリースカットピアノにかけたローカットEQ – Fabfilter Pro-Q3
ローカットをする前の2mix
90Hzローカットを入れた2mix

ローカットの効果

比較試聴していただくとわかると思いますが、90Hzのローカットを機械的に入れただけで、キックとベースがクリアになりました。また、全体的にスッキリした印象になるのも感じることが出来るでしょう。

ローカットをやりすぎな状態とは?

2015年頃、ローカットがネット上で話題になり、当教室にお持ち込みになる受講者様の音源がスカスカになっているケースが多く見受けられることがありました。

ローカットのデメリットは音が痩せてしまうことですが、あえてやり過ぎな音源も作成しましたので、ご参考になれば幸いです。

50Hz以下不要説!?

ベースを96dbスロープで50Hz以下ローカット – Kirchhoff EQ

人間の聴くことが出来る周波数は20Hzまでというのは広く知られていますが、一部50Hz以下が不要という意見もあるようです。そのため、50Hz以下をかき消すかのごとくローカットを入れました。

150Hz以下不要説!?

アコースティックギターを96dbスロープで150Hz以下ローカット – Kirchhoff EQ

もう一つの説として、150Hz以下をローカットするという意見もあるようです。そのため、こちらも150Hz以下をかき消すかのごとくローカットを入れてみました。

50Hzと150Hzローカットを入れたため、音痩せしたと思われる2mix

ドラムとベースは50Hz以下、その他のパートは150Hz以下をローカットした状態

適切にローカットを入れたものより、音に厚みがなくなったのがわかるでしょうか?これくらい強くローカットを入れると、スマホの内蔵スピーカーでも低音が減ったことが認識出来るレベルになり、モニタースピーカーやモニターヘッドフォンをお使いの方だと悪い意味で違いが一目瞭然だと思われます。

まとめ


ローカットの使用方法は、作りたい音楽のジャンルや目指すサウンドによって変わります。また、低音は非常に繊細で聴き取りにくく、正しく判断するのはなかなか難しい部分です。モニタースピーカーを使う場合は、ある程度の音量を出せる環境が必要ですし、モニターヘッドフォンでも、特に高性能なものを使用することで低音をよりクリアに感じることができます。一方で、カジュアルに音楽を楽しむ方が普段使うイヤフォンでは、低音域をしっかりと捉えるのが難しいこともあります。

今回の記事では、低音処理にお悩みの方の助けになればという想いで掲載させて頂きました。少しでも皆様のご参考になれば幸いです。