「拡張されたパンコントロール、強化されたサラウンド対応のプラグイン、およびApple Musicと互換性のあるドルビーアトモスファイルとしてプロジェクトを書き出す機能で、空間オーディオミックスにあなたの音楽を変換できます」とある、Logic Pro 10.7で追加された新機能、空間オーディオミックス。
Apple Musicに2021年6月から加わった空間オーディオが、自らの手で気軽に作り出せるLogic Pro 10.7の新機能を、Logic Proのマニュアルを片手に挑んでみたので記事にさせていただきます。
空間オーディオとは何?
Apple Musicで使えるようになった空間オーディオは、ステレオのイヤフォンなのに、まるで音に包み込まれるような3D音場を体験出来る機能のこと。
AirPods ProやAirPods Maxに、最近予約受付開始&発売となった第3世代AirPodsで楽しむことが出来ます。
空間オーディオの音って良いか!?という疑問と、自分でやってみたいという思い
Apple Musicで空間オーディオを聴くことが出来るようになった際に早速試しましたが、空間オーディオをONにして音楽を聴くのは私にはあんまり定着しませんでした。
というのも、私自身がApple Music+AirPods Proで音楽を聴くとき、作品よって全体的にリバーブがかかったような音像があまり好きになれなかったし、広がりや臨場感を追い求めたミックスより、タイトなキックやベース、ボーカルの方が真っ直ぐ自分の耳に音が届く感じがして、聴いていて楽しいというのが率直な感想だったからです。
ただ、これも長らくステレオの音像に慣れてきた自分が古い耳を持っていることなんだろうか…と思ったりしつつ、反面、こんなに音の音場を広げる必要があるかな…という疑問もあり、自分ならどのようにミックスするだろう…なんてことを妄想したりもしていました。
それがLogic Pro 10.7の登場で自ら気軽にやってみることが出来るのは嬉しいアップデートですし、さすがApple純正DAWソフトですよね。
空間オーディオミックスを試す上で必要な設定
空間オーディオミックスを作るためには以下の設定が必要です。
- Logic Pro > 環境設定 > 詳細をクリック
- すべての機能を有効にするにチェックを入れる
- ファイル > プロジェクト設定 > オーディオをクリック
- 空間オーディオをドルビーアトモスに設定する
- Masterに「Atmos」プラグインが勝手に追加される
バイノーラルで空間オーディオミックスを試す
ドルビーアトモス自体は映画館の規模からAirPodsといったワイヤレスイヤフォンまでサポートする幅広い規格であり、サラウンドも扱えますが、私のような作家が5.1チャンネルでミックス出来るシステムなど持っているわけもないので、ステレオで扱えるバイノーラルで試すことにしました。
また、普段ミックスはモニタースピーカーGenelec8331aでやっていますが、AirPods Proでの効果をシミュレートすべくモニターヘッドフォンSONY MDR-M1STでやってみます。
また、Logic Proのマニュアルを私なりに読み解くと、ドルビー・アトモス・プラグインをバイノーラルモニタリングモードに設定し、3Dオブジェクトパンナーを使えば良さそうです。
ドルビー・アトモス・プラグイン 3Dオブジェクトパンナーを選択する
空間オーディオミックスをやってみて感じた普通のステレオミックスとの違い
ボーカルの設定 ドラムオーバーヘッドの設定
まず、空間オーディオミックスをやってみてステレオミックスと感覚が違うのは、パンとフェーダーだけで上下左右と奥行きが作れること。
ステレオミックスでは、パンとフェーダーだけでは奥行きや上下を作ることは出来ず、EQとコンプを駆使して音作りをし、フェーダーを上げれば前に出てきて、フェーダーを下げれば奥に行くように各トラックの音を仕立てていきます。
しかし、空間オーディオミックスにおいては、奥行きや上下左右を3Dオブジェクトパンナーだけで作れるため、EQやコンプを使う前に3Dオブジェクトパンナーとフェーダーでじっくり音の配置を決めておくことが重要と感じました。
また、3DオブジェクトパンナーのBack/Front(前後を決める)とSize(音像の大きさを決める)、Spread(広がりを決める)の設定いかんで、音量が上がったり下がったりするので、フェーダーとの兼ね合いにコツがいるように感じます。
さらに、これは普通のステレオミックスで左右に音を広げる系プラグインやMS処理系プラグインを使った場合も同じですが、SizeやSpreadで音を広げようとすると、リバーブをかけたようなモコモコの音像になりがちです。そのため、3Dオブジェクトパンナーで作った音場をスッキリ聴かせるためにEQを使う必要があること。
コンプについては、強く潰すと普通のステレオミックスよりも音が大分奥に引っ込んでしまうので、浅めを心掛けるのが良さそうです。そのため、当然、空間オーディオミックスでは音圧を稼ぎに行くような手法は避けるべきと思いました。
実際、Logic Proのマニュアルによれば、ドルビーアトモスに対応したシステムおよびデバイスで正しく再生するためには、ドルビー・アトモス・ミックスのラウドネスレベルが-18 LUFS(フルスケールに対するラウドネス単位)以下である必要があるそうです。
まとめ
ソニーが主導する360Reality Audioもあるなか、Apple Musicの空間オーディオがLogic Proユーザーであれば追加費用なしに作ることが出来るというのはさすがApple純正DAWといったところで、制作ツールもDAWの中に統合してきたことによって、気軽に空間オーディオ作品を作ることが出来るようになりました。
なお、空間オーディオは流石にDTM初心者向けの機能というより、ガチ勢向けの機能追加といえますが、Logic Pro 10.7はその他様々なアップデートがあり、DTM初心者の方でもより気軽にクオリティーの高い音楽制作を楽しむことが出来るDAWソフトとして進化しています。
また、私もどこかで空間オーディオで聴くことが前提の曲を作ってみたいな…と思わせてくれるアップデートでしたが、ぜひこの記事が空間オーディオミックスへのきっかけになれば幸いです。