私がShadow Hills Dual Vandergraphが欲しいと思っていた矢先、Google先生で情報を調べていると売却したという記事が出てきます。
いやいや…私は欲しいぞ…新品で46万円するけど…そのような話を当教室受講者様と話していたら、「中古出てますよ!」の一報が。
さらに、正規代理店をされている宮地楽器さん扱いの中古です。
これは買うしかないということで、一報をもらった5分後には注文完了。
購入させていただいた商品もほとんど使われていなかったんじゃないかレベルで状態も良く、動作もバッチリ。早速お気に入りの機材となりました。
ちなみに、売却された記事は何もShadow Hills Dual Vandergraphが悪いからではなく、レコーディングに使えないからということで、これに関しては私も同感です。
なぜならば、Shadow Hills Dual Vandergraphはバスコンプであり、試しにボーカルレコーディングに使ったらどうなるかというのは興味があるのでどこかで試したいとは思いますが、基本的にはミックスマスタリングで使用するのがセオリーでしょう。
Shadow Hills Dual Vandergraphがなぜ欲しかったのか
これは、UADプラグインで愛用していたShadow Hills Mastering Compressorが好きだったからの一言に尽きます。
音がクッキリシャッキリするあの質感をプリセットを適当に選ぶだけで得られてしまう。これが実機になったらさらに「味」が出てくるのであろうと思うと、期待が膨らみますね。
また、Shadow Hills Dual Vandergraphは、RatioとFilter、Compression、Output Levelの4つしかいじれるところがありません。
基本的にはin the box(PC完結)でミックスする中で、ちょっとだけ特別感が欲しいという期待で外に出すということを考えると、アウトボードで大きく変えるつもりはない。つまり、通してちょっと良い音になってくれれば良いということで、Shadow Hills Dual Vandergraphのシンプルさは利便性が高いなと思っていました。
Shadow Hills Dual Vandergraphの仕様
Shadow Hills Dual Vandergraphは、アタックタイムとリリースタイムを任意で調整することが出来ません。
- Ratio 1.2:1
- Attack = 30ms
- Recover = 0.1s
- Raito 2.5:1
- Attack = 30ms
- Recover = 0.5s
- Raito 4:1
- Attack = 10ms
- Recover = 0.5s
- Ratio 8:1
- Attack = 0.5ms
- Recover = 0.25s
レシオを切り替えると、予めプリセットされたAttack,Recover(Release Time)に切り替わります。
なお、細かくアタックタイムとリリースタイムを調整したい場合はプラグインの方が当然優秀のため、自由度がないからアウトボードに価値がないという解釈はしない方が良いでしょう。
むしろ、Shadow Hills Dual Vandergraphを設計した方が何を狙ってこの仕様にしたのかを読解すれば、使いこなしが楽と私はポジティブに捉えています。
前述した通り、Shadow Hills Dual VandergraphはRatioとFilter、Compression、Output Levelのみとシンプルなため、使い方もシンプル。
- Ratioを決める
- GRメーター見ながらCompressionを上げる
- Filterを決め、Compressionの量を微調整
- Output Levelを決める
これだけでOK。
高額機材ではあるものの、決して作業フローが複雑なわけではありません。
Shadow Hills Dual Vandergraph VS Shadow Hills Mastering Compressor
さて、Shadow Hills Dual Vandergraphを入手したら真っ先に気になるのが、プラグイン版のShadow Hills Mastering Compressorとの違いです。
プラグインのShadow Hills Mastering Compressorは、一時期無料配布になったことで話題になりました。片やShadow Hills Dual Vandergraphは新品で46万円。
これほどの金額を出す価値があるかどうか気になりますよね。
さらに、Shadow Hills Dual Vandergraphは実機Shadow Hills Mastering Compressorの弟分に当たり、Shadow Hills Mastering Compressorの機能スペック全てを備えているわけでもない。
実機よりもプラグインの方が良いとなったら、プラグインの方がコスパタイパともに優れているのは当然です。
そこで比較動画を作成しました。
皆様はどのようにお感じになりますでしょうか?
マスターコンプとして使用した場合の比較
今回の比較では、マスターコンプとして使用した場合の比較です。
ソースにした楽曲は当教室で制作をお手伝いしたこちら↓
御殿場市協力の下撮影された富士山を中心にした景色と地元の中学生が出演する素晴らしいMVです。
4つ打ちのキックを大きめにする私好みのミックスとなっております。
Shadow Hills Dual Vandergraphの設定
- Ratio 1.2:1
- Filter 90Hz
- GR -1db
Shadow Hills Mastering Compressorの設定
- Stereo
- Optical GR- 1db
- Discrete Raito 1.2:1
- Discrete Attack 30ms
- Discrete Recover 0.1s
- Discrete GR -1db
- IRON
設定と比較の狙い
Shadow Hillsといえばタイトな押し出し感と音圧が特徴。2mixにそれを求める場合は、低いレシオでわずかにコンプレッションするという手法が良いと考えました。
Shadow Hills Dual Vandergraphは、仕様の面でShadow Hills Mastering Compressorには及ばないものの、Discreteで設定できる数値を揃えられるところがやはり弟分たるところでしょうか。
Ratio 1.2:1とわずかなコンプレッションですが、Attack 30msはキックを前に出したい時に選ぶところですし、Recover 0.1sといった短めのリリースタイムを組み合わせるのも、タイトな印象に持っていきたい時に使う設定。
さらに、Shadow HillsのカスタムIRONの質感が乗っかってきます。
プラグインはやはり優秀
比較動画を試聴する環境によると思いますが、パッと聴きは大差がないように感じられるのではないでしょうか?
これは私が実機のアウトボードに手を出し始めてから感じたことですが、最近のプラグインの質は高く、実機の特徴をよく捉えているんだなと感じます。つまり、コスパとタイパを重視する方から考えれば、プラグインで良いじゃんという結論に至るのも納得できます。
しかし、当教室のモニター環境Genelec 8331APMでDAW作業中に比較試聴していると結構な違いがあります。
プラグインのShadow Hills Mastering Compressorはあっさりした印象。Shadow Hills Dual Vandergraphはもっちりした印象に…いえ、こういう比喩表現を使ってしまうと訳がわからなくなりますので、もう少し具体的に言語化します。
低域のタイトさは双方とも似ていますが、量感がShadow Hills Dual Vandergraphの方が上。恐らくリリースの感じが違うのではないかと思っています。
また、アウトボードを使う意義で一番言われるのは、倍音の豊かさが違うということですね。
このため、音の存在感がアウトボードを通すと増すので、「あぁ、洋楽ってこういうの使って作ってるんだよね…」という、あの感じの違いが得られます。
私自身、Shadow Hills Dual Vandergraphを購入して良かったと感じています。
まとめ
最近のプラグインの質は高く、実機の特徴をよく捉えています。
2000年代にあったin the box(PC完結) vs アウトボード論争から20年が経って、オフラインバウンスしたら音が変わってしまった…ということも、2010年代にはほとんど気にすることがなくなリました。
タイパコスパが叫ばれるこの2020年代になぜ高いお金を出してアウトボードを買うのか…これは、アウトボードを通した時に得られる音の存在感にあります。
私は元々インプットにはお金をかけるが、ミックスマスタリングはin the box(PC完結)というスタンスで長らく制作をしてきましたし、実際納品して先方のOKを得てきました。
しかし、何か音に自分の個性を求めた場合、これぞと思うアウトボードに投資することは悪くない選択肢だと思います。
そういった意味で機材価格高騰のこの状況で、なんとか中古でお安く状態の良いShadow Hills Dual Vandergraphを入手出来たのは幸運でした。
当教室で受講者様の作品作りをお手伝いするときにも活用していきたいと思っておりますので、ぜひ個人レッスンでご相談ください。